光光太郎の趣味部屋

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映画:孤狼の血 ~東映暴力祭~

※この記事では食事中に適さない表現が多数含まれますので、ご飯中おやつ中の方はご遠慮ください。あとこの映画観る時はポップコーン買わないほうがいいっす。吐くよ。

 

 

仁義なき戦い」という映画がある。

ヤクザみたいな会社、東映が作り出したヤクザ映画の決定版であり、菅原文太をはじめとする数々の名優が群雄割拠するスター映画である。手持ちカメラによる野外撮影など技術的に評価される面もあるが、何よりも画面から迸るエネルギーが魅力的だ。私は田中邦衛のヤクザが一番好き。

 

さて今回題材にするのは白石和彌監督最新作の東映暴力ヤクザ警察映画である

 

孤狼の血

 

だ。役所広司松坂桃李、オンステージ。

 

www.korou.jp

 

 

ひとまず雑感。

面白い。とにかく面白い。冒頭の薄汚れフィルム風の東映ロゴ、ナレーション、新聞記事アップ、ブレ気味のカメラで逮捕シーンなど「はいはい仁義なき戦いね〜シン・ゴジラね~~ワロスワロス」という態度になってしまったが、完全に打ち砕かれた。 徹底的な時代美術、暑苦しい連続アップを魅力的にする汗と照明、心理戦…………何よりも「正義の継承」。終わる頃には新時代ヤクザ警察ヒーローへと変貌した松坂桃李に惚れる。最高だ。

 

さて、今回は語りたいことは3点。順を追って書いていこう。

 

 

①正義の継承

今作はヤクザと警察の物語であるが、本質は「受け継ぐこと」の物語である。なので「仁義なき戦い」や「アウトレイジ」と比べるとヤクザ・プロイテーション映画の面白みに若干欠けるが、観客と松坂桃李の視点を重ねることで非常に燃え所がわかりやすいウェルメイドな娯楽作品になっていた。

 

メンター的な存在は役所広司演じるベテランマル暴、大上章吾。

彼から「正義」を受け継ぐのは松坂桃李演じる新米刑事にして県警スパイの日岡秀一。

 

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大上はヤクザを抑えるためなら手段を選ばない。恫喝暴力放火に賄賂となんでもありだ。日岡はそんな彼の素行を調査し逮捕する為にやってきた監察官。彼は立場を隠しつつ大上とコンビを組み、加古村組と尾谷組の抗争を止めるために奔走していくが…というのがあらすじだ。そして、この2人の関係性の変化が「孤狼の血」を貫く大きな筋となっている。

 

この筋を分かりやすく示す=映画的カタルシスに繋げているのが、パチモンのライター、豚のクソといった小道具だ。

 

パチモンのライターは大上そのもの。見てくれは偽物であっても、たばこに火をつける能力には変わりない。例え手段が間違っていたとしても、カタギの人々を守る為に命を懸けて孤独に戦う。犠牲になるのは戦うべき存在だけでいい。体面よりも実、自分よりも他者。歪んだ献身者である彼の象徴が、パチモンのライターだ。

 

豚のクソの前に、豚や養豚場について書こう。劇中で大上が言及するように、豚はヤクザ達の象徴である。ぶくぶく太らされ収穫されるが、養豚場全体でみると数は調整され絶えることはない。大上がヤクザのバランスを保つ呉原の象徴が、養豚場なのだ。いや、警察も豚かもしれない。

 

ヤクザ達は最大の侮辱行為として、相手の口に豚のクソを詰める。人間は豚を食い、豚はクソをし、そのクソを豚が人間に食わした。しっぺ返し。豚のクソはヤクザ暴力であり、養豚場はクソまみれだ。

 

養豚場は、今作において非常に重要な舞台になっている。事件の発端は養豚場で起き、大上と日岡の対立が爆発するのも、日岡が大上から「受け継ぐ」のも、養豚場。法で解決することは出来ない、クソッタレな社会システムの縮図。

 

カタギの為に何十年も一人で戦い続けた大上は、そんな養豚場で豚のクソを食わされて死んだ。呉原の人々、そして大上が宛てた自分自身への言葉を知った日岡は、決して入らなかったクソの中に飛び込んで必死に証拠を探す。そしてパチモンのライターを見つける。なりふり構わない献身と、クソの中で戦う覚悟が、継承されたのである。

 

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しかし、単純に大上のやり方をマネするのではない。大上を葬り去ったシステムそのものをぶち壊すために全てを利用して立ち回り、諸悪の根源達を潰していく。そして日岡は、大上が残したたばこを吸うためにパチモンのライターへ火をつけ、映画は終わる。

 

町を守っていた「実ある正義」は継承され、発展した。なんて美しく熱い幕切れだろうか。ダークナイト的思想の大上を超える決断を下させた意味は大きい。

 

 

②オールスターキャストによる顔語り

役所広司松坂桃李江口洋介、伊吹五郎、中村獅童石橋蓮司ピエール瀧竹野内豊……今作はそうそうたる面子が登場するオールスター映画だ。若干「アウトレイジ」と被っているが、まぁ気にしないでおこう。とにかく今作では彼らが名演を見せまくるのだが、何よりも顔で語ってくる。ちょい役な人も顔一発で分かる。顔ストーリーテリング

 

例えば役所広司。初登場時から白黒コントラストバキバキな顔面とヒゲをじっくりと見せつけてくる。私は役所広司といえば気のいいおっさんかサイコパス、そしてダイワハウチュ位しかイメージ出来ていなかったが、もうばっちり暴力下ネタ刑事の顔になっていたのだ。

そして松坂桃李侍戦隊シンケンジャー、少女漫画原作映画、ドラマ、セックスと、10年以上に渡って着実に成長し幅広い演技を身に着けてきた彼は、遂にヤクザ刑事となった。イケメンはイケメンなのだが、「重みのあるイケメン」になったのだ。序盤と終盤の変貌、暴力が発露した瞬間の狂気、ライターの火をつけての爽やかな笑顔。

 

この顔面説得力を成り立たせているのは、照明とメイクにあると思う。最近洋邦問わず顔面ドアップが連続する映画が多いが、その中でも今作は抜群だ。深みのある照明、暑苦しい汗と毛穴によって、重厚な演者の芝居に映像的な迫力が加わっていた。

 

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元々いい素材に重厚な演出が加わるもんだから、顔ストーリーテリングにいよいよ磨きがかかる。最も顕著なのは中村獅童だ。ちょい役にも関わらずキーパーソン足り得る存在感。彼を筆頭に全員が「いい顔」を連発する。楽しい。

 

 

東映警察参上

東映、警察とくれば「特捜戦隊デカレンジャー」だろう。今作ではデカレッドこと赤座伴番、さいねい龍二が出演している。広島出身かつ東映警察ならば彼が出ない道理はない。画面で見つけた途端に「デカレッドだ!!!!!!!!」とテンション爆上がり。こういう東映は好きだぜ。

 

 

さて、3点に絞って良点を書いてきたが、勿論いまいちな箇所は少なくない。

 

まずは上映時間の長さだ。126分は正直長い。序盤のスピード感ある展開から一転、大上失踪以降は顕著にテンポが鈍重になる。その分、重みのある芝居をじっくりと見せてくれるのだが、ヤクザ映画の勢いを期待すると肩透かしを食らうだろう。

 

また、後半になってウェットさが強調されるのも萎えた。暑苦しい暴力と心理戦による乾いた映画から、心情重視作劇への変貌が激的すぎる。特にどんどん聖人君主に、孤高のヒーローへと神格化されていく大上の存在はいただけない。だってあいつヤクザが出入りしているとはいえカタギの旅館に火はなってるんだぜ?取り調べで連れてきた女(MEGUMI)にかき氷食わせた挙句に口奉仕させて「つめとうて気持ちよかったわ」とか言ってるんだぜ?クソ野郎だからな!!!!!

 

最後に、豚のクソやら何やらで汚い映画にしているのに、次のシーンではクソも何もない綺麗な状態になっているのは本当にダメ。単品の画ではマジでクソを映すし「ビックリどっきり栗と…」みたいな下ネタやボディタッチもやるのに……細かい一瞬の繋ぎにも気を使っていれば最高の暴力映画になったろう。

 

 

さぁ、長くなってしまった。結びといこう。

孤独に戦い続けた狼、大上の血を受け継いだ日岡こと松坂桃李の渋カッコよすぎる顔面とアクションは何度でも観たくなる。おっぱいも出るよ!!!!!

 

 

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