光光太郎の趣味部屋

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映画:魔人ドラキュラ ~原作イメージを塗り替えた紳士魔人~

こんにちは。

光光太郎です。

 

今回は最初期のモンスター映画であり「小説実写化作品」でもある

 

魔人ドラキュラ

 

の感想を書いていきたいと思います。公開は1931年!90年近く前!!

 

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■「魔人ドラキュラ」以前のドラキュラ

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ドラキュラと言えば十中八九こんな姿を思い浮かべるでしょう。

タキシードとマントを身にまといオールバックで凛々しく決めた紳士…その実態は生血を吸う吸血鬼だった…。姿形だけでなく「紳士」であることもすぐ連想できるのではないでしょうか。これはいつ出来上がったのか?

 

そもそもドラキュラとは小説です。1897年に執筆された「吸血鬼ドラキュラ」はヴラド三世の串刺し凶行をモデルにした怪奇小説。しかしこの段階ではビジュアルイメージはさほど確立されておらず、読者の想像に任せる形でした。ここら辺は「フランケンシュタイン」とも同じですね。

 

その後変身マジック等のギミックが詰まった舞台が数多く上映され、ここで黒マントにタキシードという姿が作られました。この間に「ノスフェラトゥ」というサイレント映画が作られるのですが、原作者に許可を取らずに作っていたのでお蔵入りに…。姿もドラキュラというよりも化物より。しかし影を有効に使った恐怖演出は後世まで影響を残していますね。

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ベラ・ルゴシが確立させた「ドラキュラ」

そして「魔人ドラキュラ」が作られる。ドラキュラ伯爵を演じるのはベラ・ルゴシ。彼こそがビジュアルにキャラクター性を付与させ決定的なドラキュラ像を確立させた。そのキャラクター性とは「異国のミステリアスな紳士」だ。

(因みにドラキュラはトランシルヴァニアからロンドンへと渡るが、結構距離があるのだ)

www.google.com

 

まず「異国」だが、ベラ・ルゴシハンガリー出身で訛りが強いため、劇中では結構独特な英語を話す。「アイアムドラキュラ」と自己紹介する時も「アイッアム、、、ドラッキュラァ」と、やけにタメて話す。人を呼ぶときは「ミスッッタァァ、、レンッフィィィールドゥッ」とタメにタメる。トーキー初期はハッキリと喋ったり独特なセリフ回しだったりする人が多いのだが、その中でも彼は群を抜いている。それでもコメディにならないのは、ベラ・ルゴシの美しい立ち姿の為だろう。

 

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続いて「ミステリアス」。謎の多いナルシストと言ってもいいかもしれない。

そもそも「魔人ドラキュラ」自体がドラキュラの謎、彼が起こしたであろう事件を解明していくという筋書きなので、自然と謎多き人物として描かれている。しかし彼は社交的であり、挨拶や会話は礼儀正しい。ただその中で、明らかに変なことを言ったりするのだ。「死よりも恐ろしいことが、世の中にはあるのですよ」とか「一度も死を知らない割には知恵者だな、ヴァンヘルシング博士?」とか、接すれば紳士なのにどこか変だと…。文言がカッコいいから自己陶酔なのかな?となる絶妙なバランスでもある。この「ミステリアス」な部分が、ドラキュラというモンスター最大の魅力かも知れない。

 

 

最後に「紳士」だが、これはもう前述した通りベラ・ルゴシの美しい立ち姿に由来する。更に言えば「指」と「目」の演技だ。立っている時に添える手は勿論のこと、女性の血を吸う際に力強く広げる指まで表現が込められている。端的に言えば目立つのだ。今作は白黒映画なので、黒装束だと肌が白く目立つ。エロティックに、目立つ。

そして「目」だ。キリリとした目、柔らかい態度の笑った目、そして人を操る時の鋭い目…ドラキュラ伯爵のアップが多いので猶更目立つ。軽薄さなど1mmも感じさせない貫禄ある目…特殊効果として白い光が当てられていると妖艶な光が宿る目…今作は「目」を楽しむ映画でもある。

 

以上の通り、ベラ・ルゴシは演技一発、もっと言えば立ち姿1つで「ドラキュラ」を体現してしまった。90年後の今まで続くイメージを確立させたのだ。更に言えば、彼は「フィクション・モンスター映画」を大ヒットさせた最初期の役者であり、ユニバーサルはこの後に「フランケンシュタイン」や「透明人間」「狼男」とモンスター映画を量産していく。これらの作品がどれほどの派生作品を誕生させただろうか?ベラ・ルゴシの功績は語りつくせないだろう。

ここら辺の話は以前ブログでも紹介したが、Blu-rayに詳細なメイキングがあるのでそちらを是非観て欲しい。

 

bright-tarou.hatenablog.com

 

因みに、ドラキュラと言えば「むき出しの歯」も有名だが、これは1958年に製作された「吸血鬼ドラキュラ」で初めて描かれている。演じるのは我らがクリストファー・リー

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■サイレント的なトーキー映画

ここからは内容面の話。

今作はトーキー、音が出る映画だが、実際観てみるとサイレント映画的な演出が印象深い。劇伴がほぼないのだ。

 

音楽らしい音楽はタイトルシーンで流れるチャイコフスキーの「白鳥の湖」位で、後は劇中のオーケストラが演奏するものしかない。つまり、殆ど環境音のみで、「夜の子供たちの声」のみで進むのだ。これは恐怖演出にもマッチしており、薄暗い部屋で美女に迫るドラキュラや闇で目を光らせるドラキュラのシーン等で大きな効果をもたらしている。全然音ならないのは正直ちょっと飽きるが、無音だからこその独特な雰囲気が味にもなっているだろう。

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■モンスター映画として魅力的か?

そもそもこの頃には「モンスター映画」や「ジャンル映画」という概念があまり確立していなかったのだからこういう目線で観るのはお門違いだろうが、どうしても「モンスター映画」として観てしまうわけで。

 

では今作は魅力的なモンスター映画なのか?それは否だと思う。原因は明確!弱すぎるオチだ!!!

ドラキュラは狡猾でありスキが無く、学も礼儀も嗜むキャラクターである。にも拘わらず、どう考えても追跡される状況でヒロインをアジトへと連れ込み、追われているのに棺桶に入って眠ってしまう!当然、追い付いたヴァンヘルシング博士に(寝息を立てているところに)杭を打たれて、そのまま死んでしまう!!アホか!!!!!!!!

 

血を吸うシーンを直接見せないのは、まぁいい。当時は検閲がきつかったと聞くし、眠る女性に迫る場面だけでもギリギリだったのかもしれない。

狼や蝙蝠への変身シーンを描かないのも、まぁいい。それをやると面白さというか、ギミック面が強くなりゴシックホラーの雰囲気が崩れかねない。(のちの作品では特撮使ってバンバンやってる)

これら2つが無くてもいいのは、ドラキュラというモンスターの根幹とは微妙にずれているからだ。奴の恐ろしさは前述した通り、紳士を装い人を襲う狡猾さにある。だからこそ、知恵者同士の戦いを見たかったのに…。アホか!!!!!!!!!!

 

では、今で言う所のモンスターはいないのか?それがいるのである。ドワイト・フライ演じるレンフィールドだ。最初期のサイコパス系キャラクターではないだろうか。

彼の狂人演技は圧巻の一言で、かなり極端な演技や台詞回しであるものの、完全に目が向こう側に行ってしまっているのだ。

 

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真ん中がレンフィールドである。一目で分かるこの狂人さ。演技により醸し出される恐ろしさだけでなく、狂わされてしまった者の悲哀もあるので、正にモンスターと言える存在だろう。彼の名演を観る為だけでも今作を鑑賞する価値はある。(狂人役がえらく受けたのか、今後もこういう役回りが多くなる)

 

■〆

さてそろそろ〆だ。

ドラキュラ周りばかり書いてきたが、ゴシックな魅力が詰まりに詰まった美術や衣装も本当に素晴らしい。特にドラキュラ城は最高だ。当時の鮮明でない映像だからこその、暗闇と美術とが混ざり合った映像は堪らない。特撮面で言うと、繋ぎ目が分からない見事なマット・ペインティング合成だろうか。

 

また今作は海外向けに、キャスト総入れ替え同セット撮影のスペイン語版があるのだが、そちらは迫力満点のカメラワークや鏡を叩き割るアクション、更に狂人さ(うるささ)が増したレンフィールドなど、こちらはこちらで見どころが多い。

 

文化史を知る教材の1つとしてBlu-rayを買ってみるのはいかが?1000円きるし。

 

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