光光太郎の趣味部屋

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映画:前田建設ファンタジー営業部 ~顧客舐めんな!!!~

こんにちは。光光太郎です。

 

1月がキングクリムゾンされた本ブログですが、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

今回感想を書いていきたい映画は我らが高杉真宙主演の最新作

 

前田建設ファンタジー営業部

 

原作は前田建設工業によるWeb連載で、これらは書籍化もされている。それの舞台化をベースに映画化したのが今作だ。

 

前田建設ファンタジー営業部1 「マジンガーZ」地下格納庫編 (幻冬舎文庫)

前田建設ファンタジー営業部からは3冊の本が出版されているが、1巻以外は結構な高値に…。

 

 

 

 

空想科学読本との違い

映画のあらすじは、光子力研究所所長の弓教授からマジンガーZ格納庫製作の依頼をされたら?と仮定して前田建設のノウハウ総動員して本気で設計&見積&工期計画まで行ってやるぜ!!!!!というもの。自社技術のPRによって落ち目になってきた前田建設を盛り上げよう!というのが営業部設立の目的になっているが、実際には建設業界全体のイメージアップを狙って行われた企画である。

 

こう聞いてすぐさま思い浮かぶのは空想科学読本ではないだろうか?

ロボットや怪獣、ヒーロー達が当たり前に行っていることを現実世界の物理法則で考えていくという内容であり、学校の図書館に置いてあった人も多いのでは。しかし前田建設空想科学読本とでは空想世界へのアプローチが全く異なる。後者ではフィクション描写を「如何にあり得ないことか」を示すことに重きを置いているのに対して、前者は空想世界=発注者と見立てて「(フィクション描写=無茶苦茶な要求を)どう実現するか」が目的になっている。発注者を裏切ることは出来ない!という熱い仕事魂と「技術をこう応用すれば可能なのではないか?」という現実の技術へのワクワク感がベースになっている。

どちらも空想世界を知識と技術で思考実験するという方法は共通だが、純粋な研究者視点とお仕事視点とで作風が明確に異なっているのだろう。

 

web.kusokagaku.co.jp

 

■お仕事モノとは?

そう、今作は単に「マジンガーZの格納庫作りのシミュレーションをしようぜ!」という話ではなく、あくまでも現実に即したお仕事としてどう実現させるか?また広報企画として如何に成功させるかという「お仕事モノ」になっている。

 

原作未読なのだがWeb連載のグランツーリスモの回を読んでも思考実験と会話のユーモアが中心なので、お仕事モノ要素は恐らくベースとなった舞台版から盛り込まれたものなのではないだろうか。

 

「新入社員の成長」「お客や会社に翻弄されつつ頑張るサラリーマン」「業界の内幕やあるある」「技術紹介」「内部抗争」「上司をぶっ殺す」など、ドラマや知識要素始めお仕事モノの魅力は多々あるが、最も胸をうつのは「仕事に誇りを持ち顧客の為に努力していくドラマ」だと思う(ブチ殺しが良い時もあるよ!)。「プロジェクトX」なんか正にこれだろう。辛いこともいっぱいあるけど、この仕事を待っているお客さんの為に徹底的にやってやるぜ!という姿に、現実でも働いている我々は大いに勇気づけられるわけで…。

 

プロジェクトX 挑戦者たち 通勤ラッシュを退治せよ ~世界初・自動改札機誕生~ [DVD]

プロジェクトXで好きな回。

 

■映画観客を舐めるな

それでは、この映画はお客さん=映画を観に来た人をしっかり意識して作られているのだろうか?ハッキリ言って否だ。この映画を楽しみに来ている人は誰なのか?彼らを満足させる内容は何なのか?これらに向き合っているとは到底思えない。いや、環境面では向き合っただろうが、演出が全てを台無しにしている。今時こんな邦画があるのかと驚くほどの時代退行ぶりに失神しかけた。

 

実話の映画化をするにあたっての外堀の埋め方は素晴らしいと思う。2003年当時を再現した小道具の数々やロケ地、前田建設の全面協力等により映像の説得力はある。あんな薄いディスプレイあるか?マジンガーZのBOXって2003年からあのデザインだっけ?と鑑賞中は疑問に思ったが、後に調べてみると全部その通りだったのだ…。更には、掘削やダム内部の実物を大画面で観たことによる「実物の迫力」のなんと最高なことか!高杉真宙や六角精児の、恐らくアドリブであろう素の驚嘆がカメラに納められているのも堪らない。

また脚本も良い。最初こそコメディ調で始まるものの、新入社員が「仕事」に打ち込んできた人々と出会い自らも熱意を持ち始める物語になっているし、想定であったとしてもお客さまを蔑ろには出来ない!何故ならそれが俺たちの仕事だからだ!という姿勢はサブキャラに至るまで徹底されている。中盤における競合他社の協力展開は泣いてしまった。熱い仕事魂があるからだ。

 

こういった姿勢は全力で評価するし映画観客が求めるリアリティやドラマへの欲求も満たしていると思う。が、それらを帳消しにするほど、演出と演技が酷すぎる…。ポリコレに引っかかるんじゃないかと思うくらいにデフォルメされきった登場人物達、リアリティのかけらも無い大仰&大声演技の数々、絶対にあり得ない会話の数々、活かされないアドリブ…真面目に観に来た観客を即退場させる破壊力だ。真面目にドラマを語る気が無い。パンフレットなどで「熱演」と書かれていたが…大声張り上げて変顔して妙な所作するのが「熱演」なのか?

 

トリガール!

英勉監督作で唯一観ていたのがこれ。芸能人の使い方とかドイヒーだったが、これはメインターゲットをしっかり見据えた演出がなされていたと思う。

 

何故こんなことになるのかと言えば、どんな観客が来るかを想定せずに演出しているからではないだろうか。120分じっと観てられない子供達に向けて作っているならあのテンションも分かるが、原作も扱っているテーマもマジンガーZもどう考えても幼稚園児~小学校低学年がメインターゲットではない。

 

マジンガーZの格納庫を本当に作ったらどうなるか?」という文言に惹かれる人達こそがメインターゲットなんじゃないのか?リアルタイム世代の結構な年配、再放送などを観ていた中年世代、スパロボ等でマジンガーZを知っている若年層…ここら辺が想定出来ると思うが、この層があの演出を望んでいると本気で思っていたのか…!?100歩譲って若年層だろうが、スパロボやってるやつはまず間違いなくオタクだし絶対怪獣も好きなので「シン・ゴジラ」観てると思うぞ!いや別に層関係なく「シン・ゴジラ」という究極の「日本的なお仕事映画」が超絶大ヒットした後にこういうおちゃらけた方向性で「お仕事」を映画で描くのか…!?

 

そのおちゃらけこそが俺の作家性なのだ!これを貫くのだ!という姿勢も映画監督には必要だし、それをこそ求めて来る観客もいるにはいるだろう。しかしそれは作り手視点の論であって、顧客視点ではない。物語が何度も何度も「顧客」を引き合いに出しているにも関わらず、演出担当達は「顧客」を舐め切っている。脚本が示したテーマを現場が台無しにした稀有な例をみた…。あんなOPにして「アベンジャーズオマージュww」とか言う前に、お仕事しろよ!

 

マジンガーZを舐めるな

舐め切っていると言えばマジンガーZもそうだ。

超合金魂 マジンガーZ GX-70 マジンガーZ D.C.(ダイナミッククラシックス)  約170mm ABS&ダイキャスト&PVC製 塗装済み可動フィギュア

これも最初に良い面を言っておくと、どうしたってマジンガーZの映像が大スクリーンに映ると感動してしまう。OPだけでなく様々な回が参考資料としてバンバン出てくるし、原作やアニメにおける設定違いも隠し玉も全部含めて「発注者の希望」にしてるのも良かった。新規作画もまぁ…時系列滅茶苦茶だけどいいチャレンジなのではないだろうか。(格納庫破壊されたから新しく作って、という受注なら問題なしか)

先ほど「熱演」をdisりまくったが、登場人物達がマジンガーZについて過剰に語るシーンは全部良かった!グシオスβⅢ!!!!!!!!

 

第34話 紅い稲妻・空飛ぶマジンガー

 

しかし、俺の怒りを爆発させたのは終盤、設計が終わった格納庫のイメージシーンだ。出来上がった格納庫にそびえたつマジンガーZ!CGで描かれたその姿が映った瞬間、思わずずっこけた。買ったばかりの超合金をそのままでっかくしたような質感と光の映り込みだったからだ!

 

スーパーロボット超合金 マジンガーZ アイアンカッターEDITION 約135mm ダイキャスト&ABS&PVC製 塗装済み可動フィギュア

 

本当にまんまこの質感と光の映り込みで映る。いやいやいや、超合金は玩具サイズだからこその光の映り込みであって、これを18mサイズで、格納庫でやったら絶対にこうはならないだろ。どっから光当ててんだよ!!!

 

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一応劇中にもテカテカしてる様子はあるけど…でもこれをそのまんまCGに置き換えたら不自然なんだよ!!そもそもアニメのマジンガーZってのはテカテカしてるよりも汚しが目立っていたじゃないか!!台詞でも「一番有名なOP準拠で」って言ってんだからさ!!

 


マジンガー Z OP

 

一番落胆したのは質感表現だ。ツルッツル。ツルッツルなのだ。ルストハリケーン発射口辺りが少しマットになっていたものの、それ以外は鉄とも思えない様なツルツルぶり。超合金Zの質感は絶対にあんなんじゃない。

 

質感にしろ光にしろ、巨大ロボットが本当に存在しているように見せる演出がなされていないのだ。「マジンガーZ infinity」観たか?「パシフィック・リム」観たか?「ブレイブストーム」観たか?鉄人28号のCMは?そもそも実物大ガンダム見たことあるか?そもそも巨大ロボットへの愛着はあるのか?

あとハッキリ言って造形もカッコ悪かったぞなんざあのデカい手と歪んだ顔は。

 


『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』予告編1


映画『パシフィック・リム』本予告 杉田智和吹替え版


【予告編#1】BRAVE STORM ブレイブストーム (2017) - 大東駿介,渡部秀,山本千尋


いいなCM NTT docomo for PC 鉄人28号 Gigantor 夕輝壽太 北村有起哉


【ガンダム】1/1ガンダムの軌跡 【ガンダムフロント東京】

 

正直言えば、サイズは人間並だが「マジンガー課長」の方が質感も造形も頑張っていたぞ!!!


「マジンガー課長 ~セカンドライフへ、マジンゴー!~」

 

あんな中途半端なマジンガーZなら引っ込めておいて、精巧で素晴らしい格納庫模型をもっと推してほしかったぞ!!!!!!!!巨大ロボ、そして格納庫ロマンを蔑ろにするな!!!!!!!

 

 

■〆

散々言ってきたが、エンドクレジットの作り込みだけは諸手を挙げて絶賛したい!エンドクレジットを工夫している映画はそれだけで好きになってしまう。「トレインミッション」も素晴らしかった…。

決して見やすくはないのだが、手帳やカレンダー、メモ帳など仕事に纏わる小物たちにスタッフの名前がどんどん載っていくのは可愛いし気持ちのいい動きでずっと観てしまう。気志團の曲も良い…。

 

さて、そろそろ〆たい。「前田建設ファンタジー営業部」は環境リアリティの追求、原作にお仕事モノの要素を強くプラスした脚本は素晴らしいものの、狂気の時代遅れ演出によって全てが瓦解してしまった哀しい映画だったと言わざるを得ない…。原作を買って読んでみたい、Web連載を読んでみたいと思わせる力はあったぜ!

 


映画『前田建設ファンタジー営業部』 予告