光光太郎の趣味部屋

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映画:マタンゴ

東京で始まり東京で終わるが、見え方は異なるだろう。きらびやかなネオンの夜景ではなく、人間を飲み込む闇のジャングルに感じる。(夜景はミニチュアだよね?スケール感も何もかもが素晴らしいミニチュアワークだ)


キャストは久保明に土屋嘉夫、佐原健二、小泉博、水野久美東宝特撮オールスターが勢揃い。久保さんと水野さんが一番好きな東宝特撮作品らしいけど、その理由は主役が怪獣でなく人間であり演技を十二分に活かせたからだろうか。


マタンゴ東宝の変身人間シリーズの1作。これらは科学によって変容してしまう人間、つまり人間ゴジラを描いてきた作品群である。愛憎や狂気が目立つ作劇で東宝特撮の中でもハードかつ怪奇色が強いが、中でもマタンゴは別格だ。社会や人間性への皮肉と怪物の造形、恐怖が全て連動している。


今回人間を変えてしまうのは、恐らく放射能の影響で変異したキノコ=マタンゴだが、言わばマタンゴも科学の被害者だ。自然へ科学を使ったしっぺ返しという意味では最もゴジラ的かもしれない。しかし恐ろしいのは、限界状況に追い込まれた知識層がその科学の忌み子を進んで受け入れてしまうことだろう。


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特撮のDNA図録より。デザイン画でみると原爆のキノコ雲そのものに見える。



キノコを食べなくても人間性の浅ましさで死んでいく者もいる。一番まともで正論を述べリーダーシップも発揮する庶民派なやつが最悪な裏切りをするのも、大人になってから見ると皮肉がキツすぎて笑えてくる。本多監督はこれの前に妖星ゴラスを撮ってるはずだが、文明社会の暗部を相当嫌ってるらしい。


怪物マタンゴはギリギリのギリギリまで出てこないが終盤にワラワラわいてくるとこは無茶苦茶怖い。どうみても人間が入っているんだが、数が多いし動きはキモいし造形も生理的にグロい。何よりも、眼前の恐怖に打ちのめされ絶叫する久保明の顔が怖い!主観視点交えてるから3D必要ない位飛び出てくるぜ!


映画全編通して湿っぽさジメジメさが画面から伝わってくる。汚れに汚れた調査船のセット、霧がかかった島に降りしきる雨等、湿気を感じさせる演出がてんこもりだ。キャストの肌も異様にテカテカしてるから尚更暑そうに感じる。コントロール出来ない自然にのまれ、瓦解していくインテリどもの精神…。

あの島は地獄だが、それでも唯一助かった村井は東京に比べマシだと言う。マタンゴを受け入れれば人間性を捨てる代わりに楽に生きられるからだ。東京は、人間社会はどうだろう…マタンゴになりきることが出来ず騙し合いし続けボロボロになる更なる地獄なのではないか?


マタンゴ後の東宝特撮作品である「三大怪獣地球最大の決戦」のラストは、最初はキングギドラを撃退してくれたゴジラ達を攻撃しようとする人間たちにモスラと小美人が見切りをつける…というものだったらしい。異質なものを受け入れない社会は自然から見捨てられる…マタンゴ以下だということなのか。
付け加えると、佐原健二さんめっちゃいい体してた。