特撮:仮面ライダーアギトを全話観た雑感
最近テレビマガジン版の「仮面ライダーアギト超全集」を中古屋で購入した。
— 光光太郎 (@bright_tarou) June 1, 2018
1000円ちょっとだったか。一目ぼれである。白倉Pのインタビュー付き全エピソード解説、純文学のようで熱い解析文等、てれびくん版が子供に向けた分かりやすさを重視しているのに対してこちらは完全に「オタク向け」。
これを副読本として一通り観ていなかった「仮面ライダーアギト」をネットフリックスで観ようと思ったが、仮面ライダー大配信時期はとうに過ぎ、平成一期を多く扱うのはHuluのみになってしまった。流石信頼のHulu。一応Amazonでもエピソードレンタルで観ることは出来る。
というわけで今回は、仮面ライダーアギトを全話観ての雑感をぶちまけていきたいと思う。飯と心で人間を描き、人間で物語を築き上げていく井上敏樹脚本の本領発揮だ!!
仮面ライダーアギトとは?
記憶を失った青年、津上翔一=アギト。仮面ライダーとなった男。
不器用な警察官、氷川誠=G3。仮面ライダーになろうとする男。
事故により選手生命を絶たれた学生、葦原涼=ギルス。仮面ライダーになってしまった男。
そして人間を襲う謎の存在、アンノウン。
彼らを結ぶ「あかつき号」の一件、不可解な「風谷伸幸殺人事件」、そしてオーパーツから出現した「黒い青年」、そして超能力と「アギト」…様々な謎に翻弄されながらも三者三様の仮面ライダー(劇中では一切呼ばれない)達は時に敵対し、時に協力しつつアンノウンと戦っていく。
仮面ライダーアギトは、群像劇ミステリーアクションドラマなのだ。
今ではすっかりうどんのイメージがついてしまった要潤も、若々しい演技で全51話を演じきっている。
物語構成
序盤はオーパーツやアンノウン、あかつき号、風谷伸幸殺人事件について断片的な手掛かりを得つつ推理、対策を練っていくミステリー形式が強く押し出されている。「謎」をブレない縦軸としておき、キャラクター達の魅力を散文的に描いていくのがアギト序盤の特徴だ。翔一のズレたやり取り、氷川誠の執拗な不器用ギャグ、不幸を一身に背負った涼の哀愁、そして食事。中盤以降のギャグやぶち上りシーンの布石は序盤から置かれている。
中盤、G3-X編以降からは仮面ライダーやサブキャラクター達のドラマが色濃くなってくる。もちろん「謎」の縦軸もしっかりあるのだが、その役割は話の引っ張りではなくキャラクター達が対峙すべきものになるのだ。あかつき号のメンバーも続々登場して翔一達と絡んでいき、「木野」なるリーダーの存在を匂わせる。氷川誠が、翔一が、真魚が、涼が、過去と自分自身とを巡る「謎」に立ち向かい成長していく中盤は、アギトバーニングフォームの登場と水のエルとの一次決着をもってして幕を閉じる。彼らが自分自身を信じるということが中盤のキモであり、「信じる」はこれ以降仮面ライダーアギトという物語のキモにもなっていく。
さて、木野薫=アナザーアギト編である。彼は「あかつき号」生き残りのリーダーであり、凄腕の闇医者であり、3人目のアギトにして仮面ライダーを使う男だ。彼は自分以外のアギト=超能力者を抹殺し、人間を救う唯一の存在になろうとする。彼の登場を発端に「あかつき号事件」「風谷伸幸殺人事件」「黒い青年」等の「謎」の真相が一気に明らかになっていき、「アギト=進化した人類」を問い直す、新たな縦軸を産む。アギトと人間との違い、対立を予感させる声などはアメコミのX-MENを思わせる。
アンノウンの様に超能力者を襲うアナザーアギト、あかつき号で起きた神々の戦いの末路、黒い青年=人間の創造主によって奪われていく「アギトの力」…仮面ライダーアギトの物語基盤を壊して再構築するようだ。アギトとは仮面ライダーの名ではなく概念、種の名前となる。ここへ来て「仮面ライダーとは何なのか?」という物語になってきたように思う。
アナザーアギト編は、木野の穏やかな死によって終わる。呆然とするほどにあっけないラストは、同じく井上敏樹が脚本を担当した「鳥人戦隊ジェットマン」最終話を思い起こさずにはいられない。彼は最後、間違いなく仮面ライダーだった。
47話以降は白倉P曰く「蛇足」である。
主役3人が独り立ちするエピローグ。アギトと人間とアンノウンの関係性の変化。遂に人間抹殺を決心した黒い青年との決戦。確かに46話までとは毛色は異なるが、蛇足というにはあまりにも濃い5話分だ。アギトも人間も関係なく、誰かを、自分を信じられるかという物語の結末は、仮面ライダー史上屈指の大団円。
本作における「仮面ライダー」とは、信じるものの為に戦える者のことを言うのかもしれない。
仮面ライダーアギトのキモ
何度も書いたように、仮面ライダーアギトという物語のキモは「信じる」だと思う。各ライダー達のパワーアップの切っ掛けも、誰かや自分を信じることだったし、最後の「対話」も信じるか否か?だった。壮大なミステリーや神話、父と子、超能力者と人間といった様々な要素がありつつも、最終的にはどこまでも人間臭い部分に着地させるのは、清濁混ざった人間の心を熱く描く作家、井上敏樹らしいと言えるだろう。
もう一つのキモは、人間の物語である。氷川誠=G3‐Xという凡人の存在だ。井上敏樹も虚淵玄との対談で「G3が主役みたいなもん」と語っていた。
アギトとアンノウンの戦いへただ一人「人間」として立ち向かう彼とG3ユニットは、序盤はただひたすらに弱い。アンノウンとまともに戦うこともやっとの状態だ。これを改善するために投入されたのが「アギトに匹敵する完璧マシン」G3-Xなのだが、結局「人間」氷川誠が扱えるように弱体化された。戦うために敢えて弱くするヒーローというのは斬新だ。また「もしG3-Xを完璧マシンとして突き詰めたらどうなるか?」を扱ったのが劇場版仮面ライダーアギトのプロジェクトG4となる。
アギトという能力者たちの中に人間を放り込むことで、力はただ力に過ぎず扱う人物の心こそがヒーローなのだというアルティメット・エモを産んでいるのだ。また、他のアギトたちが放浪者であるのに対して氷川誠は警察官という職に就いている。戦うことの悩みを超越し「それが務めだから」という一心で戦っているため、実は劇中ライダーの中でも最強の精神力を持つ。決して逃げない普通の人間、氷川誠が1話から最終話までどう戦い成長するのかが、本作の見どころだ。
普通の人間といえば、同じ警察官ながらG3ユニットと対立を続ける北條透も「最強の人間」と言える。天才達に振り回され同じ凡人である氷川誠にも敵わず、それでも自分の信じる道をたった一人で突き進む男なのだ。そこにはエリートの過剰意識もあるが、彼も氷川誠と同じく警察官としての責務を果たしているだけであり、ラストまで一緒。何よりも恐るべきは、黒い青年勢力にほぼ接触することなく、神々の戦いの真相に最も近づいたことである。氷川誠がアンノウン達を慄かせる程の力を得たのならば、北條透の推理と執念は黒い青年を戦慄させたことだろう。
〆
仮面ライダーアギト、小学一年生で話わからんねぇのも仕方ねぇって話と映像がてんこ盛りの51話だった。シンプルっちゃあシンプルだけど、6、7歳の子供には分からないシンプルさ。しかし、数々の強烈なイメージは20年後も全く色褪せることなく、むしろどこまでも美化させながら観ることが出来た。最高。
— 光光太郎 (@bright_tarou) June 13, 2018
平成第二期を見慣れ、クウガを全話観た後でも仮面ライダーアギトは「新鮮な仮面ライダー」として観ることが出来た。もう17年前の作品だのに、不思議だ。若干判りづらい描写もあるが、是非今を生きる子供たちにも観てもらいたい。