映画:きみと、波にのれたら ~七転び八起きは波及する~
こんにちは。光光太郎です。
今年は有名監督作品、有名スタジオによるアニメ映画の連発が続く!というわけで今回は「夜明け告げるルーのうた」「夜は短し歩けよ乙女」の湯浅政明監督による新作
きみと、波にのれたら
の感想を書きたいと思います。初夏にピッタリなデートムービー…か…?
毎度のことですが、ナガさんの感想記事で深く深く解説されているので、是非読んでみてください!
■感想後ツイート
「きみと、波にのれたら」観た。
— 光光太郎 (@bright_tarou) 2019年6月22日
いやそりゃルーとかと比べたら抑えめだけど、全然マイルドじゃないわ!湯浅監督らしい、心をかき乱しまくる物語だった。でもアニメーションはもっと暴れて欲しかったかな…。
エッチ直喩が2回位あってビビりました。新海誠も負けるな!
「きみと、波にのれたら」
— 光光太郎 (@bright_tarou) 2019年6月22日
中盤の諸々があまりにも辛すぎて、何度か目を背けてしまった。湯浅監督には是非ファンダメンタルホラーを撮ってもらいたい。というかホラーを作ってくれ。
「きみと、波にのれたら」
— 光光太郎 (@bright_tarou) 2019年6月22日
恋愛未経験者としてかなりきつかったのは序盤の30分。やってる感出しつつのプラトニックな幸せシーンに思わず砂糖を吐きそうになった!
ルーや乙女と比べてキャラの線が多く等身高いのもあいまって、本当に眩しいぜ!!
湯浅監督はこう、別に勧善懲悪な話じゃないし悪を悪として描く話でもないのに、不必要に「出来事を起こすための悪行」を悪辣にするよなぁ。
— 光光太郎 (@bright_tarou) 2019年6月22日
「きみと、波にのれたら」
— 光光太郎 (@bright_tarou) 2019年6月22日
アニメーションで一番好きなのは盗み聞きするところ。あれぞ!あれぞだろ!!
■湯浅政明×吉田玲子
湯浅政明監督は前述した2作以外にも「ピンポン THE ANIMATION」「DEVILMAN crybaby」「アドベンチャー・タイム」といったアニメ作品も手掛けています。彼と、彼が率いるサイエンスSARU作品の特徴はFLASHを使用していること。
FLASHと聞くと2000年代初頭インターネットを蹂躙した「フラッシュ動画」等が思いつきますが、サイエンスSARUでは高クオリティ(3次元的にグリグリ動く)かつ効率的な描画手法として取り入れているようですね。
漫画「ようこそサイエンスSARUへ」!!フラッシュ、作業工程など気になる方はぜひご覧ください。
— サイエンスSARU (@sciencesaru) May 17, 2017
5月19日に公開する「夜明け告げるルーのうた」もフラッシュで作業しています(>_<) pic.twitter.com/PIRdGzz8ji
私が湯浅監督を知ったのは「夜明け告げるルーのうた」。初見時は受け止めきれませんでしたが、Netflixで配信された時に見返してみたら号泣…。「夜は短し歩けよ乙女」も摩訶不思議なアニメーションの世界にどっぷりと浸れます。
極力線を少なくしたひょろ長いキャラクター達が縦横無尽に動きまくる…2作とも動きそれ自体がカタルシスを産むアニメーション作品でした。特にルーは「動き始める」瞬間からのタイトルシーンが最高!泣いた!
作劇上の特徴としては、良きにせよ悪きにせよ観客の心情を暴力的にかき乱す展開が多いことでしょうか。画面に没入させキャラクターへ感情移入させるものの、その感情の振れ幅が極端というか…幸せは幸せ!泣きは泣き!イラつきはイラつき!!と…ここまで喜怒哀楽を呼び覚まされる作品は中々ないですよ。
また、脚本にはあの、あの吉田玲子が参加。ルーは勿論のこと、昨年の超絶大傑作「若おかみは小学生!」をはじめ、「映画 聲の形」「リズと青い鳥」「ガールズ&パンツァー」等の傑作を数多く手掛ける、今最も勢いのあるアニメ脚本家の方です。
全作追ってはいませんしボンクラからソフトストーリーまで幅広く手掛けているので特徴を捉えるのが難しいですが、恐らく「最小の台詞で豊かな表現を産む」ことに長けているのではないでしょうか。ガルパンに顕著ですが、多種多様なキャラクターが登場するものの各々が魅力的に立っているんですよね。湯浅監督と組んだルーでも数多くのモブキャラがいますが、特徴づけられたアニメや美術も相まってそれぞれ目立っていました。
聲の形は最高ですよ
まぁ何はともあれ、湯浅政明監督と吉田玲子脚本のタッグとなれば、そりゃ観に行かないわけがない!「ルーと比べればマイルド」なんて評判もありますが、なかなかどうしてかき乱される話でしたよ。
■シンプルな物語&アニメーション
監督もインタビューや公式サイトで語られている通り、今作の物語はシンプルな恋愛もの。ガール・ミーツ・ボーイからの恋愛、恋人の喪失、そこからの復帰という、実に分かりやすい構成にもなっています。基本的に主人公であるひな子視点で進むのでお話もブレず、一直線に進んでいく印象。メインの登場人物もひな子、その恋人の港、港の同僚のわさび、港の妹の洋子の4人しかおらず、情報過多になりがちな湯浅監督作品らしからぬ、見やすい話運びでした。
愛が生まれ、喪失したものの依存してしまい、そこからどう生きていくのか?
恋愛ものとして語られるものの、家族や友人、ペット、生き物以外の宝物を無くした場合にも当てはめられる、誰もが共感できる物語でしょう。ここら辺はルーや聲の形にも通じる部分ですが、心情ドラマをひな子と港の関係性に絞ったことで非常に分かりやすくなっていました。
取っつきやすくなったのは物語だけではなくアニメーションも。脳味噌が追い付かない程の摩訶不思議アニメーションは鳴りを潜めた代わりに、日常の所作に着目した細かくも豊かなアニメーションが全編渡って描かれていました。
ガスバーナーを付ける、珈琲を入れる、包丁を入れる、物を食べる、手をつなぐ…アニメーション自体もとても細かく描写されていて引き込まれますし、誰もが経験のある動作にキャラクターの感情を乗せることで物語を語っているわけです。
動き自体は単純で線も少ないものの、指の形、動かし方、服のはためき、それに伴う全身の動き、彼らを包む自然の描写…それらをあますことなく描画しているんですよ。だからこそ、実写アニメ問わず見飽きている様なシーンの1つ1つに引き込まれてしまう。シンプルでありながら全く飽きないんです。
最近は邦画でも「プロメア」「海獣の子供」といった壮大なアニメが多かったですが、こういった身の回り半径1mの豊かな物語というのもいいですし、それをあの湯浅監督が作ったというのは面白い状況ですね。
■恋の幸せ、依存の地獄、人生賛歌
今作の白眉は何と言っても前半の連続デートシークエンスでしょう。
ひな子と港が歌う「Brand New Story」に乗せて、デート!デート!デート!甘ったるいデート!リア充になっていくデート!!笑い合いながら歌う「Brand New Story」に乗せてのデート!!!非リアオタクには非常に辛いシーンでした…思わず「あまーーーーーーい!」と言いそうになりましたよ(笑)。劇中でも言ってくれますけど(笑)。
プラトニックな恋愛描写だけでなく、性的関係性を穏やかかつ確かに描いているので、20歳近い若者のリアリティある恋愛描写になっていましたね。鎖骨から上のみ描かれた2人が透明感あるシーツに包まっている、どうみてもそうとしか思えないシーンの後はキスが多めになるのとかはもう言い訳出来ないでしょう。ここら辺から両者ともに声がキャッキャしてきますね。
非リアオタクとしては非常に辛く劇場から逃げ出したくなりましたが、これ以上ないほど幸せなシーンだからこそです。むしろアニメだからこそ、戯画化された理想的な恋愛描写だと割り切れたのかもしれません。(見終わった後に港視点でこのシーンを見ると泣いちゃうだろうな)
ここらへんはこの記事に詳しい
そんな幸せをどん底の絶望へと反転させるのが中盤の喪失&依存のくだり。このかき乱し加減がザ・湯浅監督って感じです。
海で亡くなってしまった港は、なんとひな子が「Brand New Story」を口ずさむと水中に現れるようになった!しかし港の姿はひな子にしか見えないので、周りからは「水に話しかけるやばい人」扱いされてしまう…。
180cm位あるスナメリのビニール風船人形に水をパンパンにつめて町を歩いているので、誰がどう見てもやばい状況に。ひな子視点中心であることが更に追い打ちをかけます。もしかしてこれは、港の死にショックを受け過ぎたひな子の幻想なんじゃないかと…。
周りからどう思われようが自分を貫くというのは美談にもなりますが、今作では「亡くなった恋人に依存し続ける」ようにしか描かれません。それこそ、ひな子が港の幽霊に取りつかれ純粋な狂気に飲み込まれる、ホラーの様に見えてしまいます。ひな子の幸せを共有したはずの観客ですら、ひな子を信じられなくなる…辛すぎる展開&描写に耐え切れず、何度か目を覆ってしまいました。
主人公を信じられなくなる話の決定版!
波に乗れていたひな子は、港との恋を、港の死を経験したことで波に乗れなくなった…。しかし、完璧人間だと思っていた港が「努力の人」であったこと、またその決意を抱かせたのが幼い日の自分であったことを知ったひな子は、遂に自分自身の人生を歩み始める…。
ちょっと意味が異なるかもしれませんが、ライオン・キングの予告がかかりまくっていることも相まって「サークル・オブ・ライフ」という言葉がしっくりくる展開でした。誰もが誰かと繋がっている、人は絶えず誰かと影響し合いながら生きている。出会って別れて失ったとしても、残るものは必ずあるし、多くの人へまた波及していく…まるで小さい波が合わさって大きな波になる様に。
生死のリンク、途切れない愛、影響し合う人と人、人生賛歌…やはり湯浅監督と吉田脚本のタッグだなと。ルーや聲の形で心揺さぶられた部分を上手く融合させていると思います。
■私はこれが観たかったのか…!?
散々褒めてきましたが、正直ガッカリした面もちらほら。
まずはアニメーション。日常描写、特に食べ物周りのアニメーションは素晴らしいと思うんですが、やはり湯浅監督作品には「摩訶不思議なアニメーション」を期待してしまうんですよ。FLASHの長所である拡大縮小自在な造形変化やクローズアップ演出こそ随所に見られたものの、本当に「随所」でしかないなぁと。恐らく分からない部分で使用されており日常描写に豊かさ厚みを持たせているんでしょうが、完全にフィクショナルな、それでいてルー等の二番煎じでないフィクショナルなシーンを観たかった!後半のテリテリサーフィンは良かった!
後はひな子の立ち上がりがかなり駆け足であり、動作反復による復帰描写が少なかったことでしょうか。ライフセーバーを目指すものの就任後の活躍はなし…人工呼吸に失敗するもののその後出来るようになる描写なし…やはり動き一発か台詞一発で明確に示しカタルシスを見せて欲しい。サーフィンを再び出来るようになる、というのも十分素晴らしいのですが、ひな子がみっともなく失敗するシーンはないので正直そこまで感動はなかった…今を生きる洋子と協力して乗り切る、というのは人生の波及を感じさせるのでグッと来たんですがね。
あとはまぁ…楽曲ですね…。少なくとも10年以上前からその世界にある曲として登場するのがバリバリの現行J-POPっぽい新曲というのは…。EXILEは10年以上前から大人気のグループなのだから、その意味では不自然ではないのかもしれませんが…それならEXILEの昔の曲を使ってもいいのでは?と思ってしまう。曲そのものよりもそれを口ずさむひな子港が最高ってのは依存無しですが。
■〆
さてそろそろ〆です。
ちょっと期待するところとは離れていましたが、それでも十二分に面白い、むしろ直近のアニメ作品と上手く差別化出来ていたと思います。
何よりね、主演4人の演技がどれもいい!特にひな子役の川栄李奈、洋子役の松本穂香は本職声優と遜色ない見事な演技でした。ヒョウモンダコ云々の台詞の応酬はちょっと「キングコング対ゴジラ」っぽいユーモアがあって好きですよ。