光光太郎の趣味部屋

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ブルーピリオドという漫画が面白い

アルフォートのCMで知っているという人も多いだろう漫画、ブルーピリオド。


【公式】ブルボン アルフォート×YOASOBI Special Movie 『群青』 inspired by ブルーピリオド

 

友人が面白いとツイーティングしていたこともあり、昨年kindleで読んでみたらあれよあれよと既刊全て読んでしまった。

 

シンプルに面白く、それでいて胸を抉り、どうしようもなく熱くなる漫画で、「絵を描く」ことに熱中し始めた主人公が東京藝術大学合格を目指す話だ。

 

まぁまず、とにかく1話を読んでみて欲しい。公式サイトで無料公開されてる。

afternoon.kodansha.co.jp


「求められること」をなんでもこなせる主人公が初めて「やりたいこと」をやり、それを通したコミュニケーションに涙するのが1話だ。

主人公の八虎は陽キャ不良かつ優等生で頭も良くはた目からは完璧な男に見えるが、勉強も人付き合いも彼にとってはこなすべきノルマ、人生を円滑に進めるための手段となっていた。しかし1枚の絵、先生との会話、そして「私の好きな風景を描く」という美術の課題との出会いを切っ掛けに自分の好きを探究し表現し始めていく。描かれた「青い早朝の渋谷」は、友人たちに伝わった。空気を読まず、気を遣わず、ただ自分が思い描く好きなものを描いて伝わった…その時八虎は泣いていた。

 

自分を表現すること、受け入れてもらうこと。普遍的な幸せだ。1話にこれが詰まってる。試しに読んでみて欲しい。そしてここから、「好き」に正直になりだした「自分」を見つめ直し始めた彼の物語が始まる。

 

ブルーピリオド(1) (アフタヌーンコミックス)

主人公の矢口八虎。いじめしないDQNでまじめな優等生というエ○同人に登場しそうな完璧キャラだが、カフェインで酔うという弱点もある。自分で思っているより熱血。

 


以前「怖い絵展」へ行ったとき、初めて美術鑑賞の楽しさを実感できた。絵は映画や小説と違いキャンバス一枚で全てを表現しなければならない。逆に言えばその一枚に全てが凝縮しているのだが、素人目には「すげぇ」ことしか分からず何が何やら…。しかし描画されているものや技術について語るキャプションを読むことで、素人でも絵の持つドラマ性を垣間見ることが出来た。語りたいことは何なのか、それを表現するために何でどう描くのか…絵を構成する全ての要素に意味があると分かった時、絵画鑑賞だけでなく芸術作品を見る目が確実に変わった。社会文化、表現技法の歴史、そして作者の意図が1枚の絵から拡がっていくのだと知った時の快感は忘れないだろう。

 

 


そんな、絵を見るってこんなにも楽しいのか!ということを初心者でも実感できるように描いてくれているのがブルーピリオドなのだ。芸術は感性で楽しむのもいいけど、楽しませるように実はとことん計算されているんだとか、そもそも何故そのモチーフを選んだかに歴史や文化が関わっていたりとか…1枚の絵を切っ掛けにしていくらでも世界が広がるんだとよく分かる。

 

 

ブルーピリオドはスポコン美術漫画だ!と言われることがある。これはスポコンものが持つフォーマットを踏襲しているからだろう。


目標、課題の提示➡達成するための手段を学ぶ➡気づき体得する➡目標達成➡講評


様々な物語で使われてきた強固なフォーマットを基にしているからテンポよく話が進むし面白がるポイントも分かりやすく、気合の入ったコマやページが物語とリンクしやすくなっている。

特筆しておきたいのは学びと気づきだ。本作には学校と予備校とに先生がいるが両者ともに手段をロジカルに教えてくれるが、八虎が考えるべき空白も示している。手段について考え自分の理解を持たなければ、表現にはつながらないからだ。ここでの「自分のものにしていく」場面は毎回いいのだが後述することにする。

また、ドラマのカタルシスは講評でも爆発する。ブルーピリオドは絵を通したコミュニケーションの物語なので講評という受けの部分が非常に重要だ。いや作品だけではない。自分の意図をどれだけ深堀しそれをどう伝えるか、どう受け取るか…会話の一つ一つがコミュニケーションのドラマとして練り上げられている。絵描き達は表現者であるが故に、傷つきながらも描かずにはいられない、表現せずにはいられない。そこが読んでいて胸を抉る。

 

ブルーピリオド(6) (アフタヌーンコミックス)

一番好きなコミックカバーイラストで、絵で殺すという気合が伝わってくる。ブルーピリオドのコミックカバーは大体全部「殺してやる!」って勢いがあるので、書店で見るとビビるだろう。

 


絵を描くというのは自己表現である。何を何でどう描くのか?選択の一つ一つに自分の意思を絡めていくので、八虎は絵を描く度に自身に問いかけ続けていく。自分はどう感じてきたのか?どう感じたいのか?何を好きだと思っているのか?自分とは何なのか…自己表現と軽く書いてしまうが、本気でやるなら自分自身にとことん向き合わなければならない。その結果自分に絶望して「好き」を信じられなくなっても…。

 

ブルーピリオドは高校生の自分探し物語でもあるのだが生易しさは皆無で、探究の結果自分のどす黒さや軽薄さ浅はかさがドンドン明るみに出てしまう。そんなどん底で見つけた何かを支えにして、そこから溢れてくるものを糧に歯を食いしばって描く姿に、もうどうしようもなく熱くなってしまう。


私達の日常における普遍的な幸せの一つに、自分らしくあることが挙げられるだろう。しかし前述した通り「自分」を見つけることは心の自傷行為を伴うので非常に困難だ。劣等感に狂い自己卑下に陥ってもそれでも確立できた「自分」があるのなら、もう描き出すしかない。技術と知識を結集させて表出させた「自分」を理解して貰えたなら、涙が出るほど嬉しいだろう。ブルーピリオドには創作活動の面白さが詰まっているのは勿論だが、それ以上に、コミュニケーションが成立した時の幸せが描かれているのだと思う。

 

ブルーピリオド(3) (アフタヌーンコミックス)

最新話で色々大変なことになっている世田介くん。彼を始め、個性や才能、家庭に縛られながら自分を模索していくドラマがあるのもブルーピリオドの大きな魅力。八虎の友人、龍二の今後も描いて欲しいところだ。

 

 

さてそろそろ〆にしたい。
ブルーピリオドは既刊8巻とまだまだ追いつける巻数だ。この絶品コミュニケーションエンタメを是非味わって欲しいが、自分探しでキツイ所は本当にしんどいのでそこは覚悟して欲しい。映画の「勝手にふるえてろ」とか「何者」が刺さりすぎて辛いという人には無理に進めない。特に7巻以降は更に自分探しの袋小路が強まるのでね…。

 

因みに私がブルーピリオドで一番好きなシーンは

 

ああそうだよ!俺はこんな奴だよ!でもこれが俺なんだ!だったら俺自身のやり方で、俺の絵で、全員殺してやる!!!!!!!はぁ・・・・・。

 

です。