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大映特撮の夏!映画:大魔神

大魔神

大魔神

  • 高田美和
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久々に観た。1966年公開なのでガメラならバルゴン、ゴジラなら南海の大決闘の時でウルトラQウルトラマンが放送していたあたり。


大魔神ガメラとは異なるアプローチ…つまり時代劇として作られた特撮映画だ。
時代劇特撮自体は大魔神以前にも東映作品で数多く存在するし、人間サイズ以上の怪物が出てくるのも東宝の「日本誕生」があるので、時代劇特撮ジャンル自体に新鮮味は無い。では何故1年に3本作られるほど人気になったのかと言えば、大魔神こと阿羅羯磨(あらかつま)というキャラクターの魅力であり、更に言えばあの変身シーンの斬新さにあるんだと思う。

はにわのような武士神像から憤怒の形相たる魔神へと変貌するあのシーン、腕をぐぐっと上げることで顔が一気に変わるあのシーンのインパクトは今観ても凄い。誰もが真似できるし、したいと思わせるキャッチーさがある。

キャラクターとして印象付けさせる抜群のシーンを見せた後は爽快な悪人退治へと移るのが王道時代劇だろうが、あくまでも人として活躍する暴れん坊将軍と違い大魔神は人知の及ばぬ神様である。なので悪人側の抵抗は全く無意味であり大魔神による一方的な殺戮が行われていく。建物の崩壊に巻き込まれるとかもあるが直接踏み潰したり握りつぶしたりする場面もあるので、自然災害的な怪獣被害ではなく何者かによる暴力的な虐殺に見える。5~6メートル位のサイズ感も、災害ではなく人の形をした神による暴力であると感じさせる要因だろう。自分を傷つけたのと同じ方法で惨たらしい死を悪の親玉へ与えても、大魔神の怒りは止まらず里を破壊しようする…。見た目の恐ろしさ含めて正しく荒神、アラカツマと呼ぶに相応しい。


前述したように大魔神は特撮怪獣としてはかなり小さい。しかしだからこそミニチュア特撮でなく、殆どセットみたいな大きさの砦を豪快にぶち壊していくので見応えは充分だ。大魔神の等身大造形物を作って合成なしで煽りを撮影してる箇所もあるし、前述の踏み潰しもデカイ足でホントに人を潰しているし…メイン役者が出るシーンと大魔神が暴れるシーンとがシームレスに繋がっていて非常に臨場感がある映像に仕上がっている。つまり、大魔神が滅茶苦茶に怖く見えるのだ。


ゴジラも大豆島の島民から崇められていたが、自然の神、土地神としての巨大怪異という方向で発展させたのが大魔神だ。無垢な女性の祈りがキーにはなっているが、神への敬いを忘れた罰当たり者へ文字通り鉄槌を下しただけにも見えるし、願いに秘められた破壊願望や、暴力による報復の悲惨さの象徴にも見える。何にせよ、人や神、土地に纏わる寓意を豊かに表現出来るキャラクターとして、大魔神はとても魅力的だ。



特撮ものに甘えることなく、舞台となる時代劇を全うに作り込んでいるのも名作たる所以だろう。
今作は巨大な何かが大暴れする特撮映画ではあるが、衣装にセット、美術、ロケ撮影、照明どれをとっても安っぽさが全くなく、尺は短いながらもリッチな時代劇として十分に楽しめるはずだ。下剋上で国を乗っ取った悪人へ殿様の遺児が戦いを挑むという、王道かつ力強い物語を的確な演出で盛り上げていくのもいい。悪党も単に外道なのではなく、為政者として手強く下衆であるのを示していくのも手堅い。



続編の怒る、逆襲では大魔神のバリエーションを拡げる方向で発展していくので、1作目は最もオーソドックスな特撮時代劇として楽しめるだろう。Blu-rayでいつか観てみたいものだ、、