光光太郎の趣味部屋

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映画:オールド

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シャマラン監督最新作「オールド」を観てきた。フォーラム東根にて。

初めて映画館で観たホラー映画が「ヴィジット」で(もしくは「ライト/オフ」)、なんて面白いんだと興奮し、そこからシャマラン作品を追い始めた。今一番露骨にヒッチコックフォロワーです!!と作品で語ってる監督だと思ってるので好きなのだ。そんな人の新作、しかも「急激に年老いていくビーチから脱出出来るか?」シチュエーションスリラーなら観たいに決まってる。


と意気込んでスクリーンの前に座るとシャマラン監督からのメッセージが流れてビビった。映画館で映画を観る喜び、またそんな作品を作れることの幸せを語るのはコロナ禍だからだろうが、映画に育ててもらった者としての熱い言葉に思わず涙ぐむ………よりも先に笑いが込み上げてくるのは何故だろう。映画館を見捨てておきながら宣伝にはきっちり「映画館での反応」を組み込む某D社は見習って欲しい。しかし、シャマランの劇中でのカメオ出演の仕方を考慮するとここでの前説は「地獄へ導いてあげるよ(ニッコリ)」ってことなんだろう。こいつめ。だから好き。タイポ芸もお見事。


ひとまず雑感としては「30分が1年になるビーチ」を用いた楽しすぎるスリラーだった。同時に、時と共に変化する体と心に翻弄されるドラマでもある。人生を俯瞰させるような「時間」ドラマが非常に魅力的だからこそ、結末の呆気なさが残念でならない。


ビーチの時間ギミックは「ビーチに入った後から」「生きている細胞だけ」発動する。なので体は成長し老いていくが、髪の毛や爪といった死んだ細胞には作用しないし、自然現象にも作用しない。
水圧になぞらえて、急にビーチから出ようとすると体が順応仕切れず気絶してしまうというのもトンデモではあるが納得感は高い。今作はこの「トンデモだが納得はする」描写の釣瓶打ちであり、ドラマが消化不良でもここだけで観る価値がある。


とにかく忘れないうちに演出の数々を書き記したい。

ビーチでは1分が12日、1秒が大体5時間となる。5時間もあれば大抵の切り傷は血が止まり傷口も塞がっているだろう…というわけであのビーチでは怪我をしても大体すぐ治ってしまうのだ。これを活かした人体破損演出が悪趣味の一言。ナイフで切ってもすぐ塞がる、骨折してもすぐくっつく(折れた瞬間治るから変な方向に固定される)……白眉なのはガンの進行と摘出シーンだろう。馬鹿馬鹿しさの局地なので医療関係者の意見を聞いてみたいところだ。ガンの腫瘍って絶対そういうことじゃないし、手術ってそんな簡単じゃないだろ!突っ込みしかないが「傷が即座に塞がる。つまり時間の進みが早いんだ。」と最初にしっかり見せ、かつ登場人物達にも納得させているので映画内理屈としては納得させられてしまうのだ。映画への導き手です!と豪語するシャマラン監督の「映画強制没入術」が全開だ。説明をスマートに行う為説明役をぶちこみポンポンとルールを明かしていくのも潔くていい。ルールが分かれば展開の予想を立てやすいし、実際それを見越したようなシーケンスもある。


時間のギミックは基本スリラーの為に使われるが、やり過ぎた結果ギャグになってるシーンもある。というか今作でぶっちぎりに印象に残るのはそこだろう。中盤の爆速受精妊娠出産シーケンスだ。じっくりとスリラーを練り上げている印象が強かったが、ここでは妊娠発覚から出産までをワンカットでスピーディーに、急き立てるような展開にしている。
急激に成長した子供達がロマンティックな雰囲気だし始めたな…と思った3分後位にお腹を大きくして出てくるから「セックスしたのか!」「セックス知ってたんか!」「妊娠したのか!」という驚きが一気にくるし(1回やっただけじゃ受精しないんじゃないの!?と質問する子供へ冷静に答えようとする親父のやりとりも完全にギャグ)驚いてる内に陣痛が始まったと思ったのも束の間出産し終わったてた………滅茶苦茶な文章だが自分の体感を正確に記述出来たと思う。そしてゲラゲラ笑ってるとすぐに悲劇がやってくる。感情をごちゃごちゃにされるのもシャマラン映画特有の面白さなのだ。



スリラー面の感想を書いてきたが、主役夫婦がお互いを見つめ直していくシーケンスはとても丁寧。彼らは既に大人だから老いていくばかりで視覚や聴覚等が損なわれていくものの、だからこそ未来や過去ではない「今」を直視出来るようになる。成長した子供達と共に同じ目線の高さで肩を寄せ合う夜のシーンは、人生の中から切り取られた「幸せの一瞬」なのだろう。一瞬なので、すぐ後にはまた悲劇がくるのだが、、


過ぎ去っていく時間の中で人生を振り返る大人達、急激に成長することで子供と大人の違いを自覚していく子供達。体と心の関係性、大人と子供、親と子……それらをひっくるめて無常に進んでいく時間…。時間と人生の寓話がソリッドシチュエーションを越えて映画のメインになっているのは明確なのに、終盤はどんどんジャンル映画的結末へと帰結していくのは本当に残念でならない。あそこまでの経験を積んで、自分達も決定的に変わってしまってもなお脱出へ、生きることへ向かうのは何故なのか?もっともっと掘り下げて欲しかった。

ドラマの消化不良はあるものの、ほぼビーチだけで進むものの映像の地味さ退屈さは全くないし時間ギミックへの導入も自然、見せ方も多彩とジャンル映画としては十二分に楽しめることは間違いない。爆速受精妊娠出産、夜の家族団欒など絶対に忘れない光景もある。これ位のをこれからもバンバン撮って欲しい。でもシャマランがカメオ出演すると笑っちゃうのでそこだけはなんとかして欲しいぜ。